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WordPress 4.7 に追加されたデフォルトテーマ Twenty Seventeen の使命と未来占い。

WordPress 4.7 にはたくさんの新しい機能が追加されました。その中で、この記事では新デフォルトテーマ Twenty Seventeen に注目して、Twenty Seventeen がどうしてこの Twenty Seventeen になったのか、その意図、背景について考えたいと思います。

そして最後にはその考察を受けて、開発者、コミュニティ、ビジネスの未来について少し占ってみたいと思います。

Twenty Seventeen の特徴

Twenty Seventeen にはたくさんの特徴があります。

などがあり、どれもじっくりと中身を見てみると勉強になると思います。今回は、デモコンテンツの追加カスタマイザーの進化という2つのトピックについて、どうしてこうした機能が追加されたのか、という視点から考えたいと思います。

WordPress をより簡単にするという使命

Twenty Seventeen はどうして今のこの形になったのか。それは WordPress を今よりもずっと簡単にするという使命を持って生まれたから、です。

4.7 のリリースリード Helen 侯-Sandí さんの以下の記事を見てみましょう。4.7 の開発作業に入る前に書かれたものです。

Theme disconnect and discontent

上記の記事では、4.7をリードするにあたってやりたいことがあるんだと書いた後で、以下のようにあります。

One of the wishlist items I’ve heard throughout my five years of core contributing has been NUX – new user experience. So many abandoned sites, so much frustration in getting a site looking the way you want it to, so let’s fix it!

コアへのコントリビューションを続けてきた5年間を通じて受け止めてきた、ウィッシュリストに入れたい項目の一つは、NUX – new user experience だ。見捨てられたサイトが多すぎだし、サイトが思うような見た目にするまでにイライラすることが多すぎる。直そう!

と。ほほう。NUXと。

NUX というのは、新しいUX(N-UX)でもあり、新しいユーザーにとっての体験(NU-X)でもあるわけだけれども、そして、今までにコアに対して行われてきた部分的な NUX 改善の数々もあったのだけれども、それは開発者間で共有されたゴールに向かって、統合的に払われた努力であったとは私は言わない。

とも言っています。では、ここで Helen が指している共有されるべきNUX上のゴールとは何のことか。

initial site setup, which also ties in with theme setup

それは、テーマ設定を含めたサイトを一番最初のセットアップする時の NUX 改善であるとのことです。簡単に言えば、WordPress でサイトを作るのが面倒だし難しいしそもそもうまくできなくてイラつくという問題をなんとかしたい、と。

さらに、こう言います。新規に WordPress をインストールしたユーザーは、 live (設定変えたらその場で変わる的な意味で)で、 non-destructive (途中でつまづくことのない)プレビューを含む、統合された作業経験を経て、みんなにウェブサイトを見せることができるところまで到達できるべき、と。

つまり、今の WordPress では、ウェブサイトを作り始めたユーザーは自分が何をしているのか分からず、結局人に見せられるようなものができず、イライラして、最終的には諦めてやめちゃうね、と。要するに、WordPress って全然簡単じゃないよね、ということです。

これ、このまま翻訳していると長くなっちゃうのでやめますが(希望があればまたやるかもしれませんが)、この後も興味深いです。

というのをやっています。そして、4.7 の機能を細かく見ていくと、上記のように言語化されたかなりの部分が解決されています。

一部ですが、上記は 4.7 で追加された機能です。できあがってみれば「なるほど、そうだよね。今まではなんでこうしなかったのかね?」的に見えるような解決策なのですが、4.6 までは誰もこれをコアに入れることができていなかったし、そこにたどり着くまでの道筋を言語化できてなかったことを思うと、特にオープンソースのプロジェクトでこれをやれるというのはすごい能力です。実際、これまでで一番簡単に実現できるものになってます(僕も実際やってみました)。

Matt Mallenweg の2つの発言

Twenty Seventeen 及びその機能を支えるコアの機能追加/改善は、明確に設定されたゴールがあり、その達成の結果です。このゴールを共有していたもう一人の人物についても触れてみたいと思います。

以下の動画は、WordCamp US 2017 の3日目、コントリビューターデイの最中に行われた Brian Krosgard さんと Matt Mallenweg さんのインタビューです(僕もこの場にいてインタビューをしてるのを見てました)。Matt は WordPress というオープンソースプロジェクトの創始者の一人であり、WordPress の機能、ブランド、コミュニティ、そのあり方すべてに対して最も影響力のある人物(の一人)です。Brian は Post Status というメディアのエディターであり、今最も上手に Matt に質問を繰り出せる人物です。

この前日、Matt は年に一度行われる State of the word という所信表明演説的なスピーチの中で、今後の WordPress のコアの開発はリリースサイクルという考え方をやめると述べました。そして、特に3つの分野について頑張るべきと話しました。その分野とは、

だと。Brian の質問は「なぜこの3つなのか?これが達成されないとやばいということなのか?」というものでした。Matt の答えは以下のものでした(意訳です)。

これらの分野を挙げたからって特に驚くことじゃないしみんな納得すると思う。たとえば、友達が WordPress のサイトをセットアップするのを手伝ってるとしよう。簡単なユーザーテストみたいなものを想定する。(中略)セットアップの場面でユーザーが直面する問題はこの分野に集約される。思ったようにエディターが使えない。広い意味でのカスタマイズができなくて詰まる。

これが私の中でものすごく大きな問題としてずっとあって、この数ヶ月、Helen が理解することを助けてくれて、解決に向けた動きを作り出してくれたものでもある。

はい。ここで彼が述べていることも同じですね。WordPress って簡単だっていうけど、全然そうじゃない。ダメポイントがあるし、ユーザーがウェブサイトを完成させられるツールじゃない。と。そして、それは Helen が理解して 4.7 で改善を始めてくれたことであると言っています。

なぜ、「サイトセットアップの簡単さ」にそんなにこだわるのか

たしかに言うとおりだ。(WordPress を利用したウェブサイト制作を仕事にして収入のほぼすべてを WordPress に依存している)僕でさえ、見知らぬテーマをインストールして満足する結果にすることって難しい。

何をしていいのかわからない。UIが理解できない。ん?他のテーマと設計が違うわ。何ができるのか分からん。ひとつのことが解決できたとして、別のパートに取り組もうとすると、さっきはウィジェットでできたけどこんどはテーマオプションでやらなきゃいけないし、このフォームの形は初めて見たし。あれ?このボタン押せるの?あー、これやるには一度カスタマイザ閉じてページを作ってメニューから選べるようにして、親子がこうで、あれ?オレ何してたんだっけ?

ってなる。

まあ、たしかにこの点は WordPress の改善点なんだけど、それでも他にも色々やるべきことはありそうな気もする。世界のウェブサイトの25%は WordPress で動いているんだから、改善することでウェブが良くなることはもっと他にもあるに決まってる。なぜ、これを選んだのか。

ここで、もう一つ見てみましょう。

Matt、驚愕のカスタマイザー・ディス

Twenty Seventeen: Merge Proposal for 4.7

僕、これ読んで笑っちゃったんです。上記の記事は、Github で開発が進められていた Twenty Seventeen をコアにマージしようというタイミングで出された記事です。だいぶ固まったので、ユーザーテストが必要で、ここからはもっと多くの人たちに触れてもらってブラッシュアップさせていこうというところまで来てるものなんです。かなり最後の段階です。そこにつけられた Matt からのコメントが、興味深すぎます。

It is kind of shocking how clunky (and slow) the UI for panels and even things like changing the logo is compared to Squarespace or Wix. At least it’s possible to create an interesting one-page site now, but I wouldn’t expect anyone to be able to figure out the steps without a detailed guide or tutorial. I think the customizer is probably fundamentally broken as a foundation we can build a next-generation WP editing experience with.

翻訳します。

なんていうか、パネルの動きとかロゴを変えるところとか、不細工すぎて、遅すぎてショッキングなんだけど。Squearespace とか Wix と比べてさ。まあ確かにいい感じのワンページサイトを作ることは可能だね。けどこれ、必要なステップを詳細なガイドとかチュートリアル無しで理解するのって、無理なんじゃないかな。思うんだけどカスタマイザーはおそらく根本的に壊れてる。次世代の WordPress editing の体験を作り上げるものとしては壊れてる。

だって。なんというちゃぶ台返しなのか。

そして、これはすごくいいコメントだと思いました。

興味深すぎます、と僕が思うポイントはいくつかあります。感想っぽい書き方で列挙します。

というようなことです。最後のポイントはまあいいとして、Matt の State of the word を聞いて、このコメントを思い出した時に、その後、Post Status の動画を見たときに思ったのは、やっぱりこの人はキャッチーなビジョンを示せる人で、僕が言うのもなんだけどそのビジョンは、たしかにその道を進めば未来が切り開かれる感があるものだなぁ、ということでした。マスにアピールすることへのためらいのなさ(それって他のプロダクトの真似じゃんって言われるの気にしない)というか、よい意味でのミーハーさというか。こんなに大きくなったのも、Matt のこういうスター性が理由の一つかもなと。

さっきの動画に戻るとこんなことも言っています。

Twenty Seventeen is beautiful. But to make it look like the demo is gonna be beyond most people. It’s possible, but it’s not easy. It’s possible, but not easy. The most important thing is to very easy to do.

Twenty Seventeen は美しいけど、デモと同じように作るのは多くの人には無理だ。もちろん可能なんだけど、簡単じゃない。一番大事なことは簡単だっていうことなんだ。

It appears like some… we have the ability in WordPress to vastly simplify and flatten many of the concept we have floating around. For example, you are old school, you remember we used to have a whole menu item for “Links, basically just for Blogroll, basically to change one widget. That sort of went into a widget. I think widgets can go away. I think menus can go away. Like a lot of these things that are separate can essentially be just different elements that you can put in a post, you can put in a page, and you can put in, like, a layout builder.

WordPress はバラバラになっているものを、もっとシンプルにフラットにできると思う。君はオールドスクールだからわかると思うんだけど、かつて「リンク」っていうメニューがあったのを覚えてる?あれは、ブログロールのためだけのもので、1個のウィジェットを変更するだけのもので、結局はひとつのウィジェットに統合されちゃった。(それと同じように)僕が思うに、ウィジェットはなくなっていい。メニューもなくなっていい。こういうバラバラに位置しているたくさんのものが、投稿やページやレイアウトビルダー的なもののひとつひとつの要素として存在できるはず。

どう捉えなおしても Squarespace や Wix などの SPA (Single Page Application)なウェブサイトビルダーのことですね。ああいったサービスを試してみたことがある人はわかると思いますが、ブロックとなっているコンテンツをウェブサイト上にポコポコ足すことができます。グローバルナビゲーションメニューのアイテムを作ることと固定ページを作成することは、少なくとも UX 上はまったく同じこととして処理されています。非常に直感的で分かりやすいです。あれのことをずっと話していて、あれを WordPress にも導入しようと言っているわけですね。

以前から、Wix や Squarespace のことにはよく言及しています。たとえば、WordPress.org/themes で表示されるテーマのリスト。ここで、検索しようとしても今どう見ても全然ダメなんですよね。Matt はこのことを Squarespace の名前を出しながら指摘していました。リンクを探したけど見つけられなかったんですが「法律家や歯医者やコーヒーショップのオーナーが自分のサイトにピッタリのテーマを探せないじゃん。Squarespace のトップページ見てみなよ」と言ってました。ユーザーにとってテーマが探しやすい。探し出したテーマは思った通りに完成までいける。そういう状況を目指しているわけです。

Helen の投稿の中の Unified Experience という言葉も難しいですが、この動画を見て、Squarespace や Wix や Jimdo の SPA ことを想定すればよくわかります。

視線の先にいるユーザーは誰なのか

簡単にウェブサイトが作れなきゃダメだ。これは誰をユーザーとして想定しているんでしょうか。25% もドミネートしているのに。こんな感じだと思います。

アメリカ国内にいる、まだウェブサイトを持っていない人たち

まず、ウェブサイト自体がまだ少ないと思っているんだと思います。全員が持っているわけじゃない。Squarespace や Wix が延びてるのは、今まで WordPress ではアピールできていなかった層も、かっこいいウェブサイトがほしかったんだ。ウェブサイトがあれば商売や人生が明るくなる人たちがまだいるんだ。そっちに向けていくべきなんだ、ということ。

インターネットがまだまだ小さい

次に、インターネットのサイズ自体がまだまだ小さいということ。

2014年の Andrew Nacin の WordCamp Sanfransisco の講演 “The future of WordPress is Global” では、以下のことが言われました。

すごいですね。地球人全員をターゲット、シェアだと考えるなら、現在の WordPress ユーザーの 2/3 は、全体の 5% のみから構成されている。

中国、インドネシア、インド、アフリカ諸国を見ると、人口に比してインターネット全然使ってない。あるいは、WordPress がリーチできてない。だから、WordPress は自身の国際化と地域化を急いでいる(そして成果を挙げている)。

そうしてネイティブの言語で WordPress を使えるようになった人々は、コンテンツの消費者、サービスの利用者だけではなくて、WordPress を使って発信側に立つ場合には、たぶんブログじゃない。それはウェブサイトだ。ぼやっとしていたらそこの 95% 持ってかれちゃうぞ、と。この辺はもっとたくさんのStatsを見ると面白そうです。

開発者やコミュニティで頑張れる人だけじゃない

最後に、WordCamp に来てデベロッパートラックに来ているような人は対象から外れます。この人達は自分でやるからいいんです(もちろん、ライトユーザーを集められていない WordCamp ってダメだよね問題は別にある)。

マスはそこじゃない。マスは開発者でも WordPress に詳しい人でも、業者でもない、と。

花屋のオーナーであり、サバンナの運搬業者であり、タイの旅行代理店であり、作家であり、子どもやおじいちゃんなのかもしれない。モバイルしか持たない人かもしれない。HTML とか聞いたこともない人たちのこと。

まとめ。占い。

Twenty Seventeen はとても美しいテーマなんだけれども、その機能はどうして今の形になったのか、そしてそれはどういう背景や視線のもとに作られたのかということを考えてみました。

Twenty Seventeen の開発の裏にあったのは、WordPress を使ったサイトのセットップって全然簡単じゃない。むしろ新しいユーザーにとっても難しすぎる。イラつく、というぶっちゃけた理解でした。それを改善しようという意思がありました。

そして、その意志を支えている視線は、もっと成長するためにどっちを向くべきなのかということであり、その方向にいるのはまだ見ぬユーザーである、と。あくまでもマジョリティであり、マジョリティにとっての Democratization of Publishing を進めていくぞ(あるいはシェアもっと取りに行くぞ)という宣言でもありました。

これは、Twenty Seventeen 自体や開発者やリードする人たちの発言の断片を組み合わせた上での解釈なので正しいのかどうかはみんなで考えたらいいと思います。

ただ、WordPress 自身は、ますますメジャーを目指しているということは間違いないと思います。

それは、だんだん WordPress に詳しくなってマニアックな使い方をしてみたり、効率的なワークフローを考えたり、開発者としてモダンなツールを導入を検討したり、といったようなこととは別の文脈としてあります。

このビジョンが正しくて、かつうまくいったとすると、ホスティングやテーマ・プラグインの販売などのスケールするビジネスはますます追い風でしょう。サポート、オンライン講座なども伸びるような気がします。制作を行うビジネスは厳しくなるでしょう。開発者コミュニティとデベロッパーコミュニティとライトユーザーとはより距離や考えていることの内容が離れていくでしょう。

こういうことを考えながらビジネスのポジションを考えたり、WordPress との付き合い方を考えてみるのも、年末良いのではないでしょうか。

同日追記: 直子さんがコメントしてくれました。

WordPress はずっと、「多くの人たちのため」に「簡単」なソフトウェアを目指している。まだまだゴールは遠いけど、反発や紆余曲折の困難があろうともそこを見失わずに前に進んでいくのは歓迎すべきことだと思います。
https://ja.wordpress.org/philosophy/

反発や紆余曲折についてですが、僕が思うのは、WordPress.org の方針とそれによって助けられるユーザーは同じ方向を向く中で、いわゆる”WordPress Developer”という肩書を名乗るような属性の人たち(日本にはあんまりいないけど)の間に分断ができそうだな、と。でも一番熱心な人達もその層だったりするのかなぁ、と。

あとは、SaaS やホスティングはもちろんのこと、やっぱりシェアが広がったりパイが増えることで花開くようなビジネスに集中するほうがいいんだろうな、と思いました。

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