Automatticの提供するJetpackプラグインを利用されている方は多いだろうが、先日WordPress.comのテーマをインストールする機能が追加された。”Say Hello To 165 Beautiful Free Themes” というブログポストでその詳細が紹介されている。
テーマのインストールはWordPress.com上からしか行うことはできず、「サイト一括管理機能」をオンにしていないと使うことができない。
が、インストールした後は普通のテーマと同じで、単に wp-content/themes
フォルダにテーマフォルダが配置されるだけのようである。
子テーマやカスタムCSSなどの機能を使うこともできるので、カスタマイズしたい場合はそうするのがいいだろう。
テーマの多くはWordPress.comが作成しており、それなりにレベルの高いデザイナーがしっかり作ったものが多い。平均点で比較すると、WordPress.orgのテーマよりもレベルの高いものが多いのでないだろうか。
WordPress.orgとWordPress.comとJetpack
さて、このJetpackのテーマ機能はWordPressのエコシステムを占う部分でも興味深い。
セルフホスト型のWordPressを利用している方——このブログの想定読者でもある方——はもしかしたらWordPress.com(以下.comと略す)自体にあまり馴染みがないかもしれないので、まずはこのサービスとJetpackの関係性を説明しておこう。
WordPress.comとは?
まず、WordPress.comはブログサービスである。日本でいうアメブロやはてなブログを想定してもらえれば間違いない。さまざまな有料サービスがあり、有料プレミアムテーマや独自ドメインなどのサービスを提供している。
つまり、Automatticという一企業のサービスであり、WordPress.orgとは密接な関わりを持ちつつも、別のものである。
セルフホスト型との機能的な違いは「テーマやプラグインを自由にインストールできない」という点にある。
Jetpackとは?
Jetpackには様々な機能が存在し、一言で説明するのが難しいのだが、現在の位置付けはWordPress.comに存在するサービスをセルフホスト型のWordPressに提供するプラグインだと言っていいだろう。
これまでもCDN(Photon)やバックアップ(VaultPress)、セキュリティスキャン、SNSシェア(Publicize)といった機能が提供されていたが、これらはよくよく考えるとWordPress.comで提供していた機能だ。
以上を踏まえて、以下のトピックに触れてみたい。
Jetpackの狙いはなにか
先日、Capital Pで、公式リポジトリから排除されたテーマZerif Liteがどのような運命をたどったかを紹介した。その中で共同創業者のMatt Mallenwegが次のように言っている。
よりよいアプローチとして、厳しすぎる必須の要件を並べて課すよりも、テーマにつけるバッジやタグを用意することかもしれません。
WP Tavernによれば、Mattは公式テーマリポジトリの厳しいルールに対して反対意見を持つ一人で、「ぜんぶのガイドラインを無視したものがディレクトリにあったって全然オーケーだと思うよ。それが興味深いものであれば」とさえ言ったことがある。
テーマをJetpackからインストールすることによって、このガイドラインに適さないテーマも今後は配布することができる。もちろん、それは「違法なことをするテーマ」というわけではなく、便利なのだが公式ガイドラインに抵触するような機能(ex. 画像スライダーのために投稿タイプを追加する)を提供するものだ。
また、現在は無料のテーマしか存在しないが、そのうちプレミアムテーマも提供されるだろう。Jetpackにはすでに有償サポートがあるので、そちらに追加されるのかもしれない。実際、Jetpackのいくつかの機能はJetpack Personalなどのプランを購入することで使えるようになっている。テーマもまたしかりだ。
MattはAutomatticのプロダクトについて WooCommerce と Jetpack がWordPress.comよりも大きく成長する可能性を秘めていると考えているようなので、必ずそうした方向に進むだろう。
Pros & Cons
とはいえ、この機能のリリースに関しては反対意見が出ている。たとえば「Jetpackはレギュレーション違反では?」というものだ。
WordPressのプラグインガイドラインには、次のような禁止事項がある。
WordPress.orgのサーバ以外からアップデートを提供したり、プラグイン、テーマ、アドオンなどをインストールすること
Jetpackのテーマインストール機能はこれに抵触する。「Saasだけはオーケー」という例外規定が存在するので、プラグインレビューチームの主張は「WordPress.comのコントロールパネルからじゃないと操作できないからSaas」なのだが、この主張に対し「屁理屈では?」と疑問を抱く開発者も少なくないようだ。
また、テーマ作成者の中には「公式テーマリポジトリでこの先生きのこるには」という問題を考え始めている人もいる。
But what does it all mean for us surviving off of the .org distribution? Tough cookies, that's what.
— WordPress Critic (@mattmedeiros) March 16, 2017
これに対し、Matt Mullenweg本人が「Calypsoと連携しよう」とリプライを飛ばしているのはさすがだ。ちなみに、Matt Medeiros氏もMattだが、こちらは有名なテーマ・プラグイン作者で、自身もプレミアムテーマを販売している。
Jetpackの将来像が実際にMatt Mullenwegの思い描いている通りになれば、「テーマの配布場所をどこにするか」という問題も出てくるため、頭を悩ませる機会が増えるだろう。
いずれにせよ、Jetpackの「テーマインストール」機能はかなりチャレンジングで、場合によっては公式テーマリポジトリの存在意義も揺るがしかねないポテンシャルを秘めている、というのが筆者の感想だ。
もっとも、FacebookのHHVMがPHP7の高速化を促したように、ライバルの登場によってサービスの質が向上することはままあるので、公式テーマリポジトリの進化にどのような影響をもたらすのか、固唾を飲んで見守りたい。