毎月第2金曜日、渋谷道玄坂で開催されている道玄坂 WordPress Meetup の「あなたの知らない中国向けWebサイトのこと」が大変興味深い内容だったので、その内容をリポートしたい。
今回の登壇内容は2本。ロフトワークの銭さんとSBクラウド吉村さんの2名。セッション数は少なめだが、実際に中国にバックグラウンドを持つ人と中国でビジネスを展開している人なので、聞き応えのある内容だった。
以下、興味深かった情報を紹介する。
中国のWeb 事情
- 端的にいうと、そもそもWebサイトをあまり使わないという衝撃の事実。SNSなどでもリンクはシェアせず、写真だけで印象付けるのがメインだそうだ。URLを張っていると「あ、中国のSNS慣れてないな」と思われてしまう。若者のURL離れ。
- 基本的にはスマホアプリメイン。WeChat(微信)やWeibo(新浪微博)のタイムラインで情報を摂取する。スマホネイティブ世代が日本より幅広い印象を受けた。
- また、中国では後ほど紹介するICP登録という制度があるためか、プラットフォーム依存が強い。Weiboで話題になったあと、Taobaoで買い物をしてもらうという流れのようだ。
- 日本でWebサイトを中国語化しても、中国人はまったく見ない。遅いし、開かないから。採用サイトしか見ない。
また、中国ではそもそも日本とはことなるプラットフォームが多数存在する。以下に筆者の知る限りの対照表を示す。
Baidu(百度) | |
twitter, Facebook | Weibo(新浪微博) |
LINE | WeChat(微信) |
Amazon, 楽天 | Taobao(淘宝網) |
Youtube, ニコニコ動画 | bilibili(ビリビリ動画) |
tiktok | tiktok |
Amazon Web Service | Alibaba Cloud |
PaypalおよびPayなんとか | Alipay(支付宝) |
この中ではtiktokだけが日中で共通のプラットフォームとなっているので、やっていないおじさん・おばさん達は手を出してみるといいだろう。筆者は去年あたりやってみたが、「音楽に合わせて変顔をするモデル」などのコンテンツが耐えられず、アプリを削除してしまった。もう一度トライしてみようと思う。
また、中国においてtwitterやfacebookなどはどのような扱いになっているのかというと、完全に「海外向け」のようだ。筆者の知る Stanley Quifan Chen というSF作家はWeiboもtwitterもやっているのだが、フォロワー数を見ると中国語運用のWeiboで14万、英語運用のtwitterで1300とだいぶ差がある。
グレートファイアーウォール
中国といえばもっとも興味深いのがグレートファイアーウォールである。中国では国外へのインターネット接続において制限があることはよく知られている。
- 上述した「日本のWebサイト遅くて開かない問題」であるが、そもそも中国は国外へのインターネット回線がめちゃくちゃ貧弱らしい。中日間が特に遅いのかどうかわからないが、同盟関係にあるアメリカと日本の間に大容量の海底ケーブルが引いてあることと比較すると、政治的な事情が関係しているのかもしれない。
- グレートファイアーウォールはISPが中国の法律によって義務付けられている「通信内容の監視」のために実行しているフィルタリングである。日本国憲法で定める「通信の秘密」とは真逆である。
- フィルタリングはHTMLの文字列ベースで行われる。対象となるのはドメイン、特定の文字列など。ドメインはWikipedia英語版に “Websites blocked in mainland China” として中国本土からブロックされているドメインがまとめられている。たとえば、Yahoo! のトップは表示できるが、検索結果は表示できない。また、Google APIもブロックされているので、Google AnalyticsやGoogle Mapなどを使っているWebサイトは表示できない。
- 文字列は「天安門事件」のようなものが対象になるらしい。また、検索エンジンBaidu(百度)が、そうした文字列を含むWebサイトを検索対象から除外しているとのこと。
- 筆者は「日本でBL(ボーイズラブ)などを書く人は検索よけとしてスラッシュ区切り(銀魂=>銀/魂)を行うらしいが、そういうハックで乗り切る方法はあるのか」と質問したが、どこまでの精度でフィルタリングを行なっているかは明確にわかっていないようだ。画像認識して画像内の文字列も識別しているのでは、という「噂」はあるようだが。ちなみに、中国でBLを販売した人は懲役10年という重罰。
中国向けWebサイトを作る簡単な方法
吉村さんのスライドで紹介されていたのだが、秘訣は下記の通り。
- 中国のWebサイトはICP登録という事前登録の必要があり、実際に中国に事業所を構えていなければならない。代行会社も存在するが、基本的には難しい。
- 中国からのネット接続が遅い理由は、「そもそも日-中間の回線が貧弱」「金盾でコンテンツが引っかかる」の2点。
- ロードバランサー(AWSならALB)を使って、中国からのアクセスの場合、HTMLを香港リージョンのインスタンスに振り向ける。HTMLのみなら上海-香港間はそれほど遅くない。
- アリババクラウド(AWSからアリババが
パクってインスパイアードされて作ったサービス)にはS3に似たOSSというサービスがあるので、静的ファイルはそちらにすべてアップロードする。このドメインはOSSのサブドメインとなるので金盾に引っかからない。WordPressなら、フィルターフックでURLを置換する。 - 金盾に引っかかりそうなコンテンツ(Google Mapなど)はHTML上から削除する。
- WebPageTestというツールで北京から接続できるのか試してみる。
というわけで、Alibaba Cloudを契約してS3的なものを手に入れると、中国向けWebサイトは展開できるそうだ。
さすがSHIBUYAだけあって、情報感度の高いミートアップである。興味を持たれた方は次回以降も参加してみてはいかがだろうか。