このCapital Pが日本語におけるそれであればよいと思うのだが、WordPressに関する高度な情報を入手できる英語メディアがいくつか存在する。そのうちの一つ、MasterWPというニュースレターから転載されたブログ記事 “The End of WordPress Themes is in Sight” に興味深いテーマについて意見が載せられていたので紹介しよう。
ブログの主張をかいつまんで紹介すると、次のようになる。
- WordPressコアチームが現在開発中のコンテンツエリアのデモを見ると、WordPressはサイトビルダーに進化するようだ。
- テーマの役割は減っていき、最終的にはスタイルシートとJSONのような設定ファイルだけになる。
- WordPressのデザインは一貫性を欠いてはいるが、ともかくブロックやレイアウトを決定するのはコアやプラグインの役割となり、テーマはそれらの見栄えを調整するだけになる。これはタフな仕事ではあるだろう。
- 自分はテーマを売ることを収入源としていたし、今後もテーマから収入を得ることになるかもしれないが、それはいままで作っていたようなWordPressテーマではないだろう。
実際にテーマを販売している開発者の意見として身につまされる。先日、Theme Hybridを運営するJustin Tadlockがテーマ・プラグイン販売ビジネスをやめてWP TAVERNにジョインしたのだが、そのブログ記事でもビジネスの将来性についての悲観的な心情が吐露されていた。
I turned 35 earlier this year. My responsibilities in my personal life, particularly financially, are not the same as they were at 25. I have to be smarter about career decisions at this point in my life. That’s a harsh reality, but it’s something we all must deal with in adulthood.
“A Sort of Farewell“
Wixのようなサイトビルダーへ対抗するために登場したGutenbergなので、その方向性によってテーマ・プラグインの販売ビジネスが変容することは予見されていた。近い時期に似たような内容の記事を目にするのは、Gutenbergの登場によってエコシステムが徐々に変更していることの表れと言えるだろう。
以下はこれらの記事を受け手の筆者の感想だ。
テーマは薄くなるか?
Gutenbergが進化することによって、テーマの方向性が変わるというのはその通りだろう。しかしながら、「スタイルシートと設定ファイルだけ」という風にはならないと筆者は予測する。
まず、WordPressテーマは単純な「見栄え」に対するソリューションなのだろうか? そのように主張することは可能だし、公式テーマはそう謳っているが、実際にはそうなっていない。人気テーマにはいくつものウィジェットが同梱されているし、カスタマイザーを利用して多くの設定項目が存在するのが普通だ。
テーマが「薄く」なるためには、2つの条件のうちいずれかが必要である。
- WordPressコアチーム、あるいはプラグインから提供されるレイアウト・機能がテーマに実装されうる機能を完全に凌駕しており、改良の余地がない。
- カプセル化が徹底され、テーマからウィジェットその他の機能を追加することができない。
どちらもありそうにない話だ。
実際にテーマのコード量が減る(例・PHPテンプレートが不要になる)ことはありえる。しかしながら、人気が出る(=ビジネスとして成功する)テーマおよびプラグインは現時点でも多くのコードを含むケースが多い。AutomatticのJetpackがそのよい例で、プラグイン一つでWordPressコアの半分以上の容量がある。「肥大化」はテーマ・プラグインのトレンドの一つだ。開発者は困るかもしれないが、一般ユーザーにはその方が便利なのだから。
筆者はテーマのスリム化に関する構想を聞くにつれ、CSS Zen Gardenというサイトを思い出す。筆者がWeb業界に入った2007年当時、まだテーブルレイアウトという古のコーディング技術は現役で、CSSによるデザインとコンテンツの分離がよく主張されていた。CSS Zen Gardenはそのサンプルであり、スタイルシートを切り替えるとデザインが一変することで啓蒙していたと言えるだろう。当時は「なるほど!」と関心したものだが、その後に登場したScoped CSSやWeb Componentsなどによって「はて、文書構造とデザインの分離とは?」と再考せざるを得なくなった。
デザインとは設計であり、よく設計するためにはこれから中に入るものを予見できていなければならない。しかし、コンテンツは次々に生まれるし、その消費形態も変わるのである。テーマがすっきりしても、他のところが分厚くならざるを得ないのではないだろうか。テーマが薄くなった世界では、テーマ+ブロックライブラリを開発することになるだろう。
生き残るテーマ・プラグインは?
さて、テーマやプラグインの人気を支えるものは「WordPressにはこれが足りない!」というユーザーのニーズだ。そういう意味で、WordPress自体がテーマやプラグインに補完的な役割を期待しているといえよう。GutenbergのようにWordPress自体が本質的な変更を加えているいま、どのようなテーマ・プラグインが生き残るのかを筆者の考えを述べたい。なお、ここではテーマ・プラグインの区別は厳密にはしない。
1. まったく異なる機能を提供する
WooCommerceが良い例だが、WordPressを単なるWebサイトではなく、ECという別の機能を付与する。WordPressのロードマップに乗っていないまったく新しい機能を提供することができれば、ビジネスとしては成り立つだろう。
2. ユーザーに導線を提供する
WordPressは多くのことができるのだが、多すぎる選択肢の前で人は途方にくれるものだ。なにより、「カフェの店長」がサイトを作り出すときになにをしたらよいのか? そこに賢いデフォルトを提供できるテーマ・プラグインがあれば、人気が出るだろう。
たとえば、アフィリエイト系のブロガーたちの間では、現在Youtube配信を始める人が増えている。こうした状況において、人気ブログがそうしているように、サイト内にYoutubeへの導線を置く機能がついていたら、それなりに人気を博すことだろう。ユーザーが「こうしたい!」と思うより前に「こうしたら?」と提案するわけだ。
Wixやそれを真似したGutenbergが実現しはじめているように、Webサイトを簡単に作れること自体に価値はない。Webサイトを使って価値を出せることに価値がある、というわけだ。
3. 開発力がすさまじくあり、マーケティングがうまい
DiviやElementorなどのサイトビルダー系があてはまるのだが、Gutenbergがいかに発展しようと、それと同じぐらいのクオリティを開発で出せるのであれば、ビジネスとしては成り立つだろう。
とりわけ、WordPressコアはオープンソースであるがゆえに、マーケティングには弱い。同じぐらいの機能でもマーケティングをしっかりやればWordPressのユーザーベースを頼りにビジネスを展開していける。ベンチャーキャピタルの前でピッチをして拍手喝采を浴びるかどうかは知らないが。
以上、ざっとではあるが思いつくパターンを列挙してみた。いずれにせよ、エコシステムが変容しただけであって、その中で生き残る方法はいくつもあるように思う。
以上、とりとめなく書いたが、大きな変化が訪れていることには違いない。ぜひWordPress関連ビジネスを行なっている方がいたら、コメントなどお寄せいただきたい。
価格¥200
順位334,675位
著フランシス フクヤマ
翻訳渡部 昇一
発行三笠書房
発売日2005年5月1日
記事タイトルはこちらの本から。