WordPress共同創業者であるMatt Mallenwegの会社AutomatticはJetpackというプラグインをリリースしている。WordPressユーザーはご存知の通り、JetpackはプラグインというよりもAutomatticの各サービスへの入り口のような位置付けになっており、スパムフィルター、バックアップ、プレミアムテーマ、検索などを提供している。
そんなJetpackにこのほど2つの機能が追加された。メールマーケティングとCRMである。
メールマーケティング
メールマーケティングツールとして追加されたのはメールマガジンへのサインアップフォーム 。この機能にはCreative Mailという別のプラグインが必要である。Creative MailはMailChimpなどと同じ従量課金制のメールマーケティングサービスだが、WordPress(特にWooCommerce)に特化しているという点が異なる。
メールマーケティングはEコマースの世界で重要だとされているが、その要望に応じた形だ。特にコロナ禍において、オンラインマーケティングへのシフトを迫られている業態は多く、その需要をいち早く察知したということだろう。
CRM
CRM(顧客関係管理)ツールとは、ユーザーをオンラインで補足するツールである。ある程度ビジネス的な規模の大きい会社で働いたことがある人はSalesforceやMarketo、HubSpotなどの名前を聞いたことがあるだろう。JetpackがリリースしたのはJetpack CRMというもので、これはZero BS CRMというCRMプラグインを買収してJetpackにリブランディングしたものだ。したがって、スラッグも以前の zero-bs-crm
のままである。
各CRMサービスとの連携は多くあるが、Jetpack CRMのポイントは無料で利用することができる点。他のCRMは結構な月額利用料金(月10万円から、会社規模によっては月数百万円)がかかる。どの程度の使い勝手かはわからないが、他社CRMは「メールマーケティングは有料」「取引登録や見積もり機能は有料」などの課金ポイントがあるので、無料でそれらが使えればファンは増えるだろう。機会があればレビューしてみたい。
なぜJetpackは新機能をリリースしたか?
さて、Jetpackのこうした機能は特に真新しいものではない。特に既存サービスとの連携を行うプラグインは多く、そのインストール数も多い。たとえばJetpack CRMのインストール数は4,000以上だが、SalesforceのPardotは7,000以上、HubSpotは10,000以上である。メールマーケティングではMailchimpが圧倒的に強く、サードパーティープラグインMC4WP(Mailchimp for WordPress)は100万以上のインストール数を誇る。Contact Form 7やGravity Formなどの人気プラグインとのインテグレーションも山のように存在している。
そう考えてみると、「Jetpackブランドの元で統一したユーザー体験を提供する」という利点がなくはないが、Jetpack的にはやや後塵を拝した形となるのは否めないだろう。しかしながら、こうした新サービスのリリースに共通しているのはビジネスゴール達成の機能という点だ。SNSのように圧倒的なアテンションを集められる場所が存在するいま、Webサイト(=WordPress)に求められるのは別の切り口である。遅まきながらもそうした需要に対応しはじめたというところだろうか。
AutomatticはWordPressコアに対してブロックエディターという投資を行ってきた。開発当初の痛みに満ちた時期は過ぎ、現在はフルサイトエディッティングの完成に向けたラストスパートを走っている最中だ。もっとも、振り回されるテーマ開発者たちにはまだまだ苦しい時期が続くだろうが……。とにかく、Gutenbergという5年にもおよぶプロジェクトは徐々に完成へと向かっており、Automatticはその先を見据えてすでに動き出しているのではないだろうか。
この「Gutenberg以降、WordPressはどうしていくのか」という問題については、ポッドキャストを収録しているので、公開を楽しみにしてほしい。
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