WordPressフォーラムが投稿者によるスレッド削除を検討中

現在WordPressのサポートチームはフォーラムでいくつかの変更を検討している。「スレ主(スレッド投稿者)によるスレッドの削除」と「商用プロダクトのサポート禁止方法をどうするか」が直近で話題になっているトピックである。

  1. Talking Point: Allowing Self-Archival of Topics
  2. Talking point: Handling support for commercial users on the WordPress forums

以下、それぞれの議題を深掘りしたい。

スレ主による投稿削除

現在の公式フォーラムにおいて、ユーザー自身がスレッドを削除することはできない。スレッドは閉じられるだけで、残り続ける。サポートスレッドは時にエラーログやサーバーのパスなどを貼り付けるユーザーもいるため、センシティブな情報が公開状態で残ることになる。

このため、スレ主(=サポートを受けようとした張本人)が希望する場合、スレッドをアーカイブ(実質的な削除)できるようにしようというのが現在提案されているアイデアである。

提案者Mika Espteinによれば、この提案はWordPressのユーザーベースがこの10年で大きく変化したことによるという。10年前のWordPressユーザーならFTPに関する知識程度は期待できたが、簡単インストールなどの普及により、もはやスレッド投稿者がPHPのバージョンはおろか、「なにが個人情報などのセンシティブな情報なのか」を把握していると期待するのは無理なのである。

Recognizing that our user base is different means we need to change our expectations. It is no longer fair to assume that everyone knows a user ID isn’t a security risk, or that posting in public means Google will find it eventually. Instead of trying to educate an ever growing user base, we can simply permit people to remove posts.

Talking Point: Allowing Self-Archival of Topics

こうした経緯を説明されると、「スレ主が投稿を削除できる」というのは妥当だと感じる。ただ、もちろん懸念点は指摘されており、「同じ問題を抱えるユーザーがスレッドを見つけられない」という大きな問題がある。

「なぜフォーラムで回答するという善意をわざわざやっているか」を筆者の経験から考えると、「公的な文書として残ることにより、同じ問題を抱える人の助けとなる」というお題目が存在するからである。それがスレ主の胸先三寸で消えてしまうとなると、モチベーションは半減どころの騒ぎではない。とんでもない数がダウンロードされているプラグインの作者も同様の懸念をFacebookで吐露していた。

また、「自分の書いた文書が公的な文書として残っている」という状態が全員にとってハッピーかというと、そうでもない。たとえば、ある受託会社の社員Aがまだ駆け出しの頃、そうとう頓珍漢なスレッドを投稿したとしよう。そこに別の投稿者が「これぐらい理解してからWordPress使おうね、僕ちゃん」という煽りをかましつつ問題解決に至ったとする。この場合、情報としては問題解決の足跡が記されているのは確かだが、5年後にCTOまで上り詰めた社員Aにとって世界に公開され続けて欲しい情報かどうかは微妙だ。「あの頃は若かったなぁ」と懐かしく思うのかもしれないし、「自分の名誉のためにも消したい」と思うかもしれない。

有償プロダクトのサポート

WordPress.orgのフォーラムはボランティアベースのため、有償テーマおよびプラグインのサポートは禁止されている。Jetpackのような「サービス」と位置付けられているものは別扱いなのだが、基本的には禁止だ。たとえば有償テーマについて考えると、ボランティアの回答者たちはそのソースコードを見たことがないし、無料で入手することもできないし、そもそも有償テーマにはサポートがついているはずなので、別の場所で聞いた方がはるかに解決可能性が高い。

このため、現在は単に「禁止」となっているプロダクトプレミアムについてのスレッドをどのように誘導するかが議論されている。

  • 有償プロダクトの場合すぐにスレッドを閉じるべきか?
  • 有償プロダクトのサポートページへリンクを貼れるようにすべきか?
  • モデレーター(管理者)がスレッドを閉じるのではなく、開発者がなにかしら(e.g. サポートへのリンク)を書き込めるようにすべきでは?
  • 開発者が誘導しやすいようサポートへのリンクを変更できるようにすべき。BuddyPressのプラグインページのサポートタブだけ特別扱いされてる!

有償プロダクトの開発者の中には、WordPress.orgのエコシステム(公式ディレクトリ、サポートフォーラム)を利用している人も多い。たとえば、テーマやプラグインはオープンソースかつ無償にしてエクステンションで対価をとるなどの方法である。これはこれで成熟したビジネスモデルではあるのだが、顧客には「この質問は無料版についてなのか有償版についてなのか」がわからない。よくわからないので管理画面で「サポート」と表示されているサポートフォーラムに向かってしまうのだろう。

まだ議論の段階なので、どのような結論になるのかはわからないが、サポートフォーラムが利用者(サポートを受けたい人)目線に改良しようとしているのが伝わってくる議題だ。

余談1・サポートフォーラムで疲弊したら有償サポートを用意しよう

筆者自身はプラグインを多くリリースしているが、そんなに人気というわけではないのでサポートフォーラムに書き込みが多くはない。それでも疲弊することはあるので、対応策をご紹介しよう。

まず、GianismというプラグインはGianism Premiumというプレミアムプランを用意している。これは月額およそ1,000円とけっこう高いのだが、その対価は明示されていない。あくまで「プラグイン開発の応援」である。「そんな商品を買う人がいるのか?」と思うかもしれないが、買う人がいるのである。

公式ディレクトリに掲載されているGianismは無料で利用できる。サポートフォラームの書き込みにも、すべてではないが対応している。では誰が購入するかというと……ずばり仕事で使っている人である。筆者は自身で会社を経営しているということもあり、電話やメールでGianismの利用法に関する問い合わせを受けることがある。その際、必ず「公式フォーラムに回答するか、プレミアムプランを購入してください」と回答している。なぜかというと、その人が300万で受託したWordPress案件の問題解決を筆者が無料で秘密裏に解消するのはおかしいからである。公式フォーラムならば、あとでそれを読んだ人が助かるので利他的な行為とも考えられるが、メールで問題解決してあげた場合、得をするのは質問者だけだ。

筆者はこれまでFacebookメッセンジャーやSlack DM、メールなどで問題解決を共有してきたが、そこで問題を解決された人が「高橋文樹さんのおかげで解決できました!」と言っているのをほとんど見たことがない。映画で例えるなら、スタッフロールに私の名前はないのだ。もしあなたがテーマやプラグイン作者として疲弊しているなら、「有償サポートの導入」を検討してみてはいかがだろうか。複雑なモヤモヤが「客か、客でないか」というシンプルな問題に還元されるので気が楽になる。

筆者はこのプレミアムサポート作戦を全プラグインに展開する予定である。

余談2・ユーザーベースの変質?

IT業界には人に教える習慣がないというツイートがちょっと前に盛り上がりを見せたのだが……

これはおそらくプログラミングスクールの隆盛と無関係ではなく、人口が増えたからそう感じる人(いままで業界にいなかったタイプの人)も入ってきたからでは、と筆者は考えている。

Mika Epsteinが上記のブログで分析してきたように、WordPressユーザーの数が増えるにつれFTPしたことないパーソンもWordPressを使うようになってきたことは「IT業界は教える文化がない」と主張するパーソンと似ている。サポートチームがその「変質」を敏感に感じ取り、サポート規則を変更しようとしているのはプロジェクト成長の一側面として興味深い。

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