WordCamp US 2024でマットとWPEngineが衝突

2024年9月17日から20日にかけてオレゴン州ポートランドで WordCamp US 2024 が開催された。毎年おなじみの質問コーナーではWordPress共同創業者であるマット・マレンウェグが大手ホスティング会社であるWP Engineについて突如批判を開始した。

批判の趣旨としては概ね次のとおり。

  • WPEngineはWordPressにあまり貢献していない。
  • WordPressを「ハックして」金儲けしている。

マットはイベント開催中もブログ記事 “WP Engine is not WordPress” を投稿(しかもWordPress.orgドメインで!)したり、Xで「次のWordCampにWPEngineを呼ぶべきか?」とアンケートをとっている。

こうしたやや「攻撃的な」批判について、Automattic社員であるジェイムズ・ジルーは WCUS: Freedom Isn’t Free というブログポストでその主意をに賛同しつつ、驚きを表明している。

また、WP Engineはこれらの批判に対して、Highlighting Over a Decade of Innovation and Contribution to the WordPress Community というアンサーブログをすぐさま公開した。

SNSでは賛否両論で、現在もこの議論は継続中だ。肯定的な意見がある一方、「マットだってAutomatticでWordPress.comをやってるじゃないか、WordPress.com is not WordPressだ」という批判も見受けられる。

なぜマットが突然WP Engineを批判しだしたかというと、いくつかの理由が考えられる。

まず、WP Engineはその企業規模と売り上げに比べると、たしかにWP Engineのコントリビュート時間は少ない(Five for the Futureどころではなく、0.5%以下)。同社のブログポストから同社が「貢献」と考えているものがわかるのだが、それらはどちらかというと自社サービスのプロモーションである。「スポーンサーが貢献である」という意見も見られるのだが、非常に言いにくい――というのも、筆者が今後日本で開催されるWordCampに関わることもあるかもしれないので――のだが、スポンサーは「貢献」というより、「恩返し」「集客」のためにお金を出しているのであって、あくまで「貢献」ではない、という考え方があるようだ。ここらへんは「お客様は神様です」と考える日本文化圏からは想像しづらいのだが。

そしてもう一点、WP Engineを所有するSilver Lakeというプライベート・エクィティについてマットが言及していることから、WP Engineの収益指向性についてなにかしらの心当たりがあるのかもしれない。WP EngineはWordPressエコシステムの中で最大の利益をあげている会社の一つであり(年間4億ドル)、その利益率はかなり高い。また、Go Daddyなどと比べると、WordPress以外のホスティングは特にやっていない。つまり、WordPressに依存したビジネスモデルなのだ。

オープンソースの継続性というのはたびたび議論されるが、よく挙がる例としてOSSを採用するが貢献の少ないAWSだ。MicrosoftやGoogleといった同程度の規模の企業と比較して、AWSはOSSに対して冷淡である。Redis, MongoDB, ElasticSearch, Kafkaといった多くのOSSがAWSの「タダノリ」を批判してきた。中にはデュアル・ライセンス(商用利用に制限をつける)で対策を図る開発元もあったが、その度にAWSはOSSを「フォーク」して開発元に還元することはない。とはいえ、最近は変わってきたようだが(参考:ソフトウェアと愛 – あるいはOSSとAWSの確執

そう考えると、マットが突然WP Engineを名指しで批判したのは「乱心した」からではなく、OSSに対して冷淡な企業が多くの利益を上げる状況を牽制したかったのだろう。今回の吊し上げ的な手法がよかったのかはわからないが、OSSの継続性について中の人たちがかなり危機感を持っている証拠だ。

「殿のご乱心」と面白がるだけではなく、OSSのサステナビリティについて考えてみる必要があるのかもしれない。そして、多くの人にそう思わせることが狙いなら、マットはなかなかの策士といえるだろう。

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