企業によるWordPressへの貢献をFive for the Future(未来のための5%)として紹介するイベントが開催

2023年7月18日に企業によるWordPressコントリビュート成功事例: スキルアップとグローバル参加の機会が開催された。主催はAutomatticの高野直子氏。参加者は日本のコントリビューターのほか、同じくAutomatticからAngela JinとHari Shankerらが参加。両名の仕事は色々あるが、その一部に”Contributor Experience”を高める、というものがある。つまり、WordPressの開発で主導的な地位を占めるAutomatticでは、コントリビューターを増やすための仕事が存在しており、このイベントもその一環だということだろう。

Five for the Futureとは?

さて、イベントの本題に入るために、Five for the Future(5ftFと略される)について説明しておこう。「未来のために5%の時間だけWordPressに貢献しよう」というこの理念というかメッセージはWordPress.orgにもページが用意されており、実は2014年から提唱されている。つい先日行われたWordCamp Europe 2023でも大きなトピックとして取り上げられたようだ。最近は企業のページを登録できるようになっており、Pledge(誓約、つまり5%をWordPress貢献に使うという宣言)した企業の一覧が表示されている。たとえば、Googleのpledgeページは次のとおり。

GoogleのPledgeページ

具体的には企業がPledgeをしつつ、どのチームにどれぐらいの時間コミットメントをするのかを宣言する。これは個人でも可能で、スポンサードされているコントリビューターはどの企業に何時間分をサポートされているかを入力することができる。たとえば、先日SWELLで有名な株式会社LOOSがGutenbergプロジェクトのCore Teamコントリビューターである浜野哲明氏のサポートを開始したが、こうした活動はWordPress.orgのプロフィールに記入することができる。

Fiver for the Futureの現在

イベントではこうしたPledgeの仕組みを紹介しつつ、成功事例なども紹介された。5ftFの問題意識の出発点をよく表しているのが、次のスライド。

OpenSSLやLog4Jなどの様々な場所で使われているオープンソースソフトウェアの脆弱性が発覚した時に思いのほかメンテナが少なかったことも話題になった。現在のデジタルテクノロジーでこうした状態はけっして稀ではなく、「ネブラスカ州にいる誰かが、特に感謝されることもなく2003年からずっと保守を続けているプロジェクト」というのもあながちジョークではないだろう。

こうした問題意識はOpenSSLのハートブリード脆弱性あたりから企業間で共有されており、5ftFはそのトレンドにWordPressが追随した流れだ。

コミュニティが成長し続けるにつれてスケールしていくための経験則として、WordPress のパイを (自分たちの部分だけでなく) 成長させたい組織は、(WordPressに) 関わる何かに取り組むよう従業員の5%の時間を捧げるべきであると私は考えています

Matt Mallenweg(スライドより引用)

このトレンドに従っている企業としては、YoastやGoogleなどがある。また、数値としては以下のようなものが挙げられた。

  • 5ftF企業の平均は週48時間、コントリビューターは5人
  • 2023年、WordPressコントリビュートのうち70%はスポンサード貢献者だった。
  • 10%のスポンサード貢献者が70%の貢献を行なった。

また、チップスとして以下の情報も提供された。

  1. 小さく始める。
  2. 企業の戦略を立て、どの分野(チーム)に貢献すべきか決める。
  3. ゆっくり継続的に活動する。

その後、座談会で実際にコントリビュートしている企業からの意見を交わし、今後どうしていったらよいかなどについて話し合われた

左の3名がAutomattic、m-g-n大串氏、職人工房田中氏、Prime Strategy相原氏、Digital Cube古賀氏

日本でFft5は可能か?

筆者は座談会で「ほとんどのコントリビュートを企業にスポンサードされた貢献者が行なっているなら、そういう企業を誘った方がいいんじゃないか」という質問をしたのだが、意図した回答は得られなかった。そこで、「日本でこうしたムーブメントを展開していくのは、どうしたらよいだろうか」という点について、イベントの振り返りを兼ねて考察してみたい。

まず、このFft5にPledgeしている日本の企業は、コアコントリビューターであるtoro_unitを擁するHAMWORKSである。HAMWORKSは札幌を拠点とするウェブ制作会社である。ここで、Plegeしている会社にとってのメリットを筆者が勝手に推察してみたい。

  • 会社としてWordPressに詳しいという信頼・実績のブランディング
  • Plegeに掲載している広報・広告効果
  • WordPressコミュニティにおけるリクルーティング効果

上記はイベント内で語られたメリットとほぼ同じである。では、その費用対効果がどうなのかというと、HAMWORKSが約束している週4時間が人日7万円だと仮定すると、8,750円×16時間で月140,000円である。この費用対効果を具体的に算出せよ、と言われるとなかなか辛いものがあるが、この部分のロジックがある程度明瞭なものになると、スポンサードされたい個人や社内制度を整えたい制作会社にとって採用しやすい制度になるだろう。

海外の例を見ると、たとえばGoogleやWP Engineはビジネスとしての明確さを持っている。Webサイトのパフォーマンスを向上させることで事業ドメインに明確な利益があるGoogleは、コントリビューターを雇うような型でWordPressのパフォーマンスを向上させている。WordPressを向上させれば世界のWebサイトの4割近くを改善できるのだから、よい投資だろう。

また、ホスティング企業であるWP EngineはWordPressが向上すれば、自社のサービスもついでによくなっていくので、投資しがいがある。セキュリティやパフォーマンスチームに自社のメンバーを送り込めれば、サービスの向上も見込めるだろう。

日本におけるGoogleのようなサービスは思いつかないが、さくらインターネットやX Serverなどはスポンサードコントリビューターを雇える有力候補である。今後、マッチングサービスのようなものが生まれれば、スポンサードされる貢献者も増えてくるかもしれない。また、日本ではRuby発祥の地ということもあり、オープンソースメンテナーが企業に雇われるケースが多い印象がある。そうした先行事例を参照することも必要だろう。

ビジネス上のメリットを全面に押し出してしまうのは、WordPressコミュニティの理念に相反する気もするが、Five for the Futureの理念を広めていくためには、寄付文化がいまいち根付いていない日本でのロジックの組み立て方を検討していく必要がありそうだ。

企業によるWordPressへの貢献についてのイベントは久々のオフライン開催ということで懇親会ふくめて盛り上がった。膝突き合わせて話すこともコミュニティの成長に必要なので、またオフライン・イベントは復活してくることだろう。

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