去る2024年3月7-9日の3日間、台湾で2回目となるWordCamp Asia 2024が開催された。本稿では、一参加者としての目線を紹介したい。
さて、昨年バンコクで開催されたWordCamp Asisa 2023は度重なるコロナ禍での延期で四年の準備期間があるイレギュラーな開催だったが、台北での開催は約一年の準備期間を経て、通常運転第一回目の開催となった。台北はローカルWordCampも開催されており(2019年のリポート参照)、ビザ・物価・ローカルチームなど様々なハードルを超えた「適切な」開催地だといえるだろう。
セッション
キーノートはHumanMadeのノエル・トックによる”the Future of WordPress”である。最近のWordPressマーケットが停滞期(よくいえば成熟期)にあることは筆者も登壇したWordCamp Tokyo 2023でも述べたとおりだが、この基調講演ではWordPressコミュニティの哲学者であるノエルによって、希望的な未来が語られた。
タクシーからシェアライド、釜から電気炊飯器など、いわゆる「イノベーションのジレンマ」的な話が語られたのち、WordPressにどのような発展がありうるか、という未来像が示された。Sカーブののちに続くSカーブというのはなるほどそのとおりだが、果たしてそれがComposable CMSなのか、という点はややリップサービスだったろうか。
そもそもWordPressのシェア増大とGoogleの検索需要が連動しており、なおかつ検索需要自体が減りつつあるということは、WordPressにとってコントロール可能なことでは環境のように思われる。また、「イノベーションのジレンマ」では、マーケットの新たな覇者になるのは「非連続的な技術」を持ったニューカマーなので、それがWordPressであるという保証もない。もっとも基調講演なので悲観的な内容を話す必要もないとは思うが。
また、最終日の目玉コーナーとしては、WordPress共同創業者マット・マレンウェグによる「Matt Mallenweg Q&A」が催された。
このコーナーの終盤で毎年マットが所信表明をするState of the Wordが2024年12月に東京で開催されることが明らかにされた。昨年はスペインで開催されたので、今後は毎年各地で開催されることになるのだろうか。ある意味で「アメリカのもの」だったWordPressの所信表明演説がヨーロッパ・アジアで開催されるようになったのは多様性という意味で評価できるだろう。詳細はWP TAVERNでも報じられている。
その他、気になったセッションは次のとおり。
- 高野直子氏による「Insights from WordPress Contribution: What make us Impactful」ではAutomatticで 5 for the Futureなどのプロジェクトに取り組んだ経験がシェアされていた。
- Googleのアダム・シルバースタイン氏はライトニングトークでGoogleの新しいCore Web Vitalの指標INPについて紹介していた。人気すぎて、ルームに入れず。
最後のクロージング・リマーク(閉会式)では、次回WordCamp Asia 2025の開催地はフィリピンのマニラと発表。筆者は30年ぐらい前に一度いったきりだったので、発展したマニラの姿を楽しみにしている。
コントリビューターデイ
3月7日に開催されたコントリビューターデイでは、600人以上が参加し、これはアジアでの開催では最多となる。テーブルリード(コア、デザインなどの各テーブルのリーダー)は世界各国から集まっており、コントリビューション活動の一環としても非常に力の入った構成であった。
アフターパーティーなど
アフターパーティーはMAJI MAJIというショッピングモールのフードコートのような場所を貸し切って開催。立食形式のパーティーで、バンドによるセッションなども催された。
期間中はサイドイベントとして幾つかのパーティーが告知されており、WordCampのパスを持っていると気軽に参加できる形式になっていた。ここら辺の「パーティーにおいでよ文化」はアメリカやヨーロッパでよくみられるが、日本のWordCampではあまりお目にかからない。よくある形式としては、ホスティング企業などの大きなところがお店を貸しきって飲み放題なのだが、日本でWordCamp Asiaが開催された場合、それは実現可能なのか気になるところだ。
観光など
海外のWordCampに参加する醍醐味としては、観光もある。前後数日を追加して街歩きをするのも楽しい思い出になる。台湾は会期中、あいにくの空模様だったが、食事や観光など、けっこう楽しめた。
ただ、物価はあまり安くなく、たとえば筆者は台北市で有名な牛肉麺(角煮ラーメン)を食べに行ったのだが、300台湾ドル(日本円1500円)と、安いという感じはなかった。日本ではラーメン1,000円ぐらいの感覚である。
ナイトマーケット(夜市)もいくつかあり、そちらでは臭豆腐・タピオカなどの名物を楽しむことができるが、では日本の夏祭りより安いかというと、そんなことは全然なかった。
筆者は会期の前日、金山という東北地方に向かい、1日だけサーフィンをした。悪天候で誰も海に入っておらず、海も大荒れだったため、一時間で上がった。日本からサーフボードを持って行って一時間というのも「何をしに行ったのか」という感じだが、海外でサーフィンをするというのは特別な体験だったのでよい思い出になった。WordCamp会場は日本でいうなら東京は新橋の国際フォーラムのような場所だったので、筆者は「日本についたらすぐさま千葉県の九十九里に向かい、翌日に新橋へ行く」というような異常なムーブをかましたわけだが、「田舎に行く」というのはその国を知るために重要な体験だ。おそくら、筆者は「世界で初めて海外のWordCampコントリビューターデイにサーフボード持参で登場した人間」として記録されることだろう。
また、さらに意外な出会いとしては、けん玉プレイヤーと出会ったことである。筆者は「WordPress界で世界一けん玉が上手い」と自負していたのだが、なんとWordCamp会場でけん玉プレイヤーから話しかけられ、「どれどれ私の灯台を見るかね」と技を披露したところ、相手の方が百倍ぐらい上手く、しかも日本の呉市で開催されるワールドカップにも招待されているとのことで、ぶったまげた。相手もそれは同じだったようで、「WordPressとけん玉を両方やる人にはじめて出会った」と感動していた。ニックネームが「哲也」である彼のInstagarmはこちら。
WordCamp Asiaはまだ2回を数えたばかり。欧米が牽引するソフトウェア業界でアジアが存在感を見せるためにも、まだまだWordCamp Asiaには成功し続けてもらいたいところだ。
なお、今回のWordCamp Asia 2024では所属するTaroskyから筆者、オーガナイザーのToru Mikiを含む5名が参加した。また、TaroskyはドキュメンテーションチームリードのAkira Tachibana氏のトラベル・スポンサーでもある。TaroskyではWordPressへのコントリビューションをサポートしているので、「なんかいっつも自腹で貢献しているなぁ」という悩みがある方はぜひご連絡いただきたい。
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