Automatticが再びリストラ、16%の人員削減へ

English: Unemployed men queued outside a depression soup kitchen opened in Chicago by Al Capone

以前お伝えしたとおり、Automatticは昨年から係争中のWP Engineとの訴訟 #wpdrama 過程で159名の従業員が退職したばかりだが、再びリストラを敢行する計画があることを発表した。16%の人員削減を行う予定とのことで、1,493名の従業員がいるので、238名が対象となる。これは実のところ、前回のリストラよりも大規模である。

※その後の情報提供によると、リストラはすでに実施され、対象者は退職しているようだ。また、上記の1,493人という数字はリストラ実施後の可能性もあり、そうすると1,700人超から250名以上が退職して今の数字、という可能性もあることをお断りしておく。

この経営判断の理由については以下のように語られている。

  • Become more agile and responsive.
  • Break down silos that have created inefficiencies.
  • Focus on product quality, doing fewer things better.
  • Ensure a viable financial model for long-term success.

要するに、経営効率を改善し、不採算部門をなくすということなのだろうが、これに関しては業界のトレンドとして特に不思議なことではない。2023年頃のインフレ・金利上昇・景気後退によって多くのIT企業がリストラを行った。Google、Metaなどのリストラをニュースで見た人も多いだろう。WordPress界隈でも大手エージェンシーのHuman Madeが2023年にリストラを行っている。

では、なぜその時期にリストラを行わなかったAutomatticがいまリストラを行うのか、ということについて筆者の所感を述べたい。

その1. WP Engineとの訴訟

WP Engineとの訴訟で訴訟費用がかかるうえに、Automatticが手痛い敗北を喫した場合、それなりの金銭的ダメージを追うことになる。実際、コントリビューションを減らすという報道があった通り、Automatticはホスティング企業として自社プロダクトに専念すると発表しており、その理由の一つとしてWP Engineとの訴訟が挙げられている。

その2. Automatticは収益をあげる必要がある?

これはそもそも「なぜ急にWP Engineを攻撃したか」とも関わってくるのだが、Automatticは非上場企業ではあるものの、投資を受けている。その評価額は2021年時点で75億ドル、ユニコーン企業と呼んで差し支えないだろう。この金額はWP Engineの2019年時点8億ドルを大幅に上回っている。

しかし、Saas企業においてはARR(Annual Recurring Revenue=年間経常収支)がシンプルな業績指標として用いられ、その何倍(3-5倍?)かを企業価値とする。WP EngineのARRは2019年で1億ドルだったが、2024年には4億ドル(!)だという報告もある。

そうすると、WP Engineの2024年の評価額は2021年8億ドルから4倍したとして、2024年時点では32億ドルになっているはずだ。AutomatticはWordPressコミュニティに対するコントロールを加味して評価額が高く設定されているだろうことを考えると、Saas企業の収益体制としてはWP Engineに負けている可能性が容易に想像できる。実際、Automatticに投資するBlackLockは株式評価を10%下げている。投資を受けたら収益をあげて投資家に還元しないといけないのが株式会社の常であり、Automatticも例外ではない。

さて、あなたがAutomatticに投資する冷徹な資産家だとしよう。当然、「AutomatticはWordPressの所有者だと思ったから投資したのに、WP Engineとかいう奴らの方が儲けてるじゃないか!」とマットに苦言を呈する。「Gutenbergとかいうエディターに何億も投資して、それでWP Engineも儲けてしまっとるやないかい! やめろや!」と関西弁で激詰めするかもしれない。今後はAutomatticがWP Engineよりも儲けるか、別の経営者にAutomatticの舵を切らせるか、Automatticを売却するか、そのいずれかだ。その過程で株式分割なども行われ、マットがAutomatticの経営権を失うかもしれない。となると、コミュニティの新しいリーダーが誰になるかなどの話題は、資本主義の冷徹な判断によって行われる可能性がなくはない、と筆者は考える。ちょうど、Drupalも似たようなフェーズに差し掛かっており、Maker vs Taker問題について創業者のDries BuytaertがDrupalconで基調講演を行っている。WordPressとDrupalというCMSの抱える問題については “What’s happening with WordPress and Drupal?” という記事が参考になるので興味のある方はご一読を。

仮に筆者の邪推があっているとしたら、マットにかかるプレッシャーは相当なものだろう。乱心しているように見えても、いろいろ中では大変なだけなのかもしれない。もちろん、「オープンソースが白人男性のBDFL(優しい終身の独裁者)にコントロールされている」という別の批判はありうることは留保しておく。

というわけで、「資本主義におけるオープンソースの影響力保持」という観点から、今後も趨勢を見守りたい。

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