さて、先日のインタビューを公開したところ、筆者のFacebook投稿に次のようなコメントが寄せられた。
以前からぼんやり疑問なのですが、GPLな有料テーマはGPL守る限りは無償でも再配布できますよね。
アクティベーション機能があるGPLなテーマもあるようですが、これのアクティベーション機能を削除するのは、法的にも思想的にもGPLに違反しませんし、アクティベーション削除版をGPLで配布することもできますよね
にもかかわらずGPLな有料テーマがビジネスになるのは、WordPress界の文化的な背景があるのでしょうか。
質問者の方は経験豊富なエンジニアで、WordPressのことは知ってはいる。が、たしかに聞かれてみれば、GPLというライセンスの構造上、なぜそれでビジネスになりえるのかというのは、しごく真っ当な質問でもあるので、ここで一つ、問題の整理を兼ねて「なぜGPLライセンスの有料テーマ販売が成立するのか」について整理してみたい。
合法の海賊と厳しい自由
さて、上記の質問の前提として、GPLライセンスが持つ「利用方法の自由」という性質がある。
GPLライセンスはユーザーの利用方法を制限してはならないので、どう使おうがユーザーの自由である。したがって、指摘の通り、一度手に入れたテーマなりプラグインをどうしようが、ユーザーの自由である。アクティベーションを解除してもなんら問題はない。
たとえば、あなたがTSUTAYAでDVDを購入し、それをリッピングしてデータをインターネット上で配信したらそれは著作権侵害であり、海賊行為である。だが、GPLライセンスで配布されているものを改変すること、そして、それを販売することは著作権侵害ではない。したがって、15,000円(税抜き)で販売されているSnow Monkeyを筆者が勝手に9,800円で販売し、その利益のすべてを得たとしても、なんら違法ではない。それがGPLの謳う「自由」である。
また、GPLを謳いながら実はGPL違反をしているパターンとして、「インストールできるサイト数の制限」や「公序良俗を乱すサイトでの利用禁止」を掲げているプレミアムテーマなどがそれにあたる。
たとえばThemeForestのようなマーケットプレースで商売を行う人々は——それも無理のないことなのだが——「自分が作ったものでほかのやつが儲けるのは馬鹿げている」という生理的嫌悪感から、GPLでない独自のライセンスで販売を行なっている。WordPressはGPLだが、プラグインやテーマはWordPress本体ではないのだから、別ライセンスで構わないというのも、彼らを勇気付ける主張の一つだ。
一方、WordPressファウンデーションは、「プラグインやテーマはWordPressの派生物である」という主張をしている。GPLはソフトウェアおよびその派生物に影響する。したがって、テーマは100%GPLでなければならない、というわけだ。WooCommerceのようなサイトは100%GPLを遵守しつつマーケットプレースを展開している。
こうしたそれぞれの立場について、明確な法的決着がついたケースは少ないだろう。この地球上のほとんどの地域では、殺人を犯せば警察に逮捕されるが、GPLを犯しても警察には逮捕されない。実際、WordPressファウンデーションはGPL違反に対して訴訟を起こしたことはないはずだ。筆者の知る限り、Matt MullenwegがWixに対して法廷で待ってるといったぐらいである。
登場人物紹介
いったんまとめよう。WordPressのエコシステムには次のようなビジネスプレイヤーがいる。
ライセンス | 違反 | 種別 | 儲かってる? | |
---|---|---|---|---|
ThemeForest | 独自ライセンス | 違反とGPLが混在 | マーケット | めちゃ儲かってる |
WooCommerce | 100% GPL | 合法 | マーケット | 儲かってる |
STORK | スプリットライセンス 利用法制限 |
違反 | テーマ | たぶん儲かってる |
Snow Monkey | 100% GPL | 合法 | テーマ | 儲かるといいな |
WordPressコミュニティでは、100%GPLを遵守しないプレイヤーに対して、次のような制限を設けている。
- WordCamp, WordPress Meetup, WordBench(※日本限定)では、100%GPL(スプリットライセンスでないGPL)でないWordPress関連製品を褒めたりする人を登壇者から除外している。
- 公式のテーマ・プラグインリポジトリには掲載されない。したがって、トラフィックを自分で稼がねばならない。デパートに出店せず、路地裏でほそぼそと商売をする羽目になるというわけだ。
100%GPLを遵守することで得られるメリットはこの正反対である。公式リポジトリに掲載され、コミュニティイベントに登壇することができる。もちろん、それらのメリットを金銭的な価値に換算することは難しい。となると、ライセンス違反上等でThemeForestに掲載する方が収入が多かったりはする。鞭は柔らかく、飴は固い。
なぜビジネスが成り立つのか?
さて、そもそもの質問者の意図は、「GPLのような自由すぎるライセンスでお金を取ることが成り立つのはなぜだろう」ということだった。
その答えはただ一つ、WordPressのユーザーベースが膨大だからである。それだけの規模の人数に浸透する文化的な背景はない。なんといっても、Webの29%だ、Googleが求人するのも頷ける。それだけのユーザーベースがあると、中には奇特な人がいて、きちんとルールを守っている人を応援しようという気持ちから、どうとでもできるテーマに対してお金を払うのだ。
実際に、ライセンス違反をしていない有料テーマが再配布されていることはある。が、それはマルウェア同梱のものであることが多い。Tideのような仕組みもできることだし、GPLを利用して再販売する人は原理的に存在し続けるだろうが、全体からするとわずかな割合だ。これらの「敵」はWordPressユーザーの中で包摂してしまえるぐらい少ないはずだ。ちょうど、我々の社会が悪人の1,000人や2,000人いたところで滅ばないのと同じである。
ビジネスを行う側に関して率直にいうと、現時点ではGPL違反をしている人々の方が儲かっているだろう。
おそらく、前述のインタビューで北島氏が挙げたテーマは、Snow Monkeyよりもはるかに大きな富を手にしているだろう。それでも、これだけのユーザーベースがあると、サドゥのような人でもビジネスを成長させる余地が生まれるのだ。最近ではFreemiusのような、GPLを遵守しつつサブスクリプションを可能にするサービスも生まれている。
余談だが、筆者はライセンス違反かどうかで売り上げが変わるとは思っていない。どちらかというと、ライセンス違反してでも商売をしようと思うぐらい儲けたい気持ちの強い人の方が、商売が上手なのだろう。
まとめ
WordPressがエコシステムの土台となり得たのはオープンソースだったからであり、Webの29%を支えるWordPressは2018年現在、もっとも強力なオープンWebの動力源の一つである。その理念に遵守する100%GPLのビジネスは劣勢ではあるが、WordPressコミュニティなどの間接的な支援を受け、徐々に拡大しつつあるのではないだろうか……と、質問で幕を閉じるとしよう。そうはいっても、飛ぶのはやさしい。
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著イヴァン ヴィスコチル, カリンティ フリジェシュ
翻訳千野 栄一
発行国書刊行会
発売日1992年7月1日
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