「日本ワードプレス協会」に感じるモヤモヤと検定ビジネスについて

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先日よりSNSなどで日本ワードプレス協会なる団体が発表した「WordPress関連の認定資格」が話題になっている。その反応に好意的なものは少ないのだが、なぜそうなってしまうのかについて、情報を整理しつつ書いてみたい。

「日本ワードプレス協会」のWebサイト

そもそもWordPressの認定資格を始めることは可能か?

答えはイエスである。たとえば、明日、Capital Pが”Capital P認定WPエキスパート”という試験を始めることも可能だ。この際問題となるのは以下の2点だ。

  • 資格の認定をするのは誰なのか?
  • 商標に問題はないか?

さて、まず認定者について。今回とりあげる「日本ワードプレス協会」という名前についてだが、そう名乗っていいのかという良識はさておき、特定の人の集まりをもって任意団体を自称することは可能である。これは会則が定められていれば問題ないわけで、日本ワードプレス協会もこれを定めている。憲法にも「結社の自由」が明記されていることだし、これは全然問題ない。筆者も任意団体を作ってゆうちょ銀行に口座を作ったことがある。

続いて商標について。これは日本国内においては、認可されさえすれば、問題なくなるだろう。目下のところ、「ワードプレスコンサルタント」が商標登録中で、審査にかけられているようだ。たしか二ヶ月ぐらいは第三者が異議を唱えることができたはずだが、普通は認可されるまで気づかないので、審査が通れば有効な商標となる。これは商標制度の脆弱性であり、商標ハックのような手段を生んでしまっているが、制度は制度である。

現在のステータス。J-Platpatで見られる。一番上はWordPressファウンデーションのもの。

したがって、「ワードプレスコンサルタント」認定試験に関しては法的に問題がないと考えることもできる。「日本ワードプレス協会」という名称についてはファウンデーションの許可を得ていなければ商標侵犯の可能性もあるので、法廷闘争などに発展することがあればその結果を待ちたい。たぶんアウトだと思われる。

さて、結論から言うと、団体名がアウトっぽいが、資格試験に関してはセーフというのが筆者の見方だ。

法の外側には倫理や道徳が存在する

さて、法的にはそんなにアウトではないのだが、「日本ワードプレス協会」があまり快く受け入れられないだろうと筆者が予測するに十分な根拠がある。

  • 代表であるかのような名称
  • 認定を行うに足るだけの資格
  • 検定ビジネスっぽさ

まず、日本にはすでにWordPressユーザーの膨大なコミュニティが存在し、WordBenchなどの名称で活動を行っていること。そうした緩やかな任意団体が大量に存在する中、あたかも日本代表のような顔をして「日本ワードプレス協会」を名乗ることは得策ではない。もちろん、名乗るのは自由なのだが、まったくいい顔はされないだろう。その「公式っぽさ」に惹かれた何人かのユーザーを獲得することはできるかもしれないが、それと同じぐらいの不評を得ることになる。マーケティング的によくない。

続いて、認定試験を行うに足るだけの資格があるかどうかも重要だ。もちろん、認定試験をやるのは自由である。たとえば、筆者が「高橋文樹ファン認定試験」を開催して、その受検料を——誰も払わないだろうが——取るのも自由だ。ただ、筆者のことを全然知らない人が「高橋文樹ファン認定試験」を開催していたら、「ちょっと待って」となる。WordPressコントリビューターを多く社員として抱えている、WordCampで何度もスポンサーになっている……そうした企業なり団体なりが認定試験をするのならともかく、Google検索を駆使しないと代表者の身元もわからないような団体では、認定試験を行うに足るだけの資格があるとはいえないだろう。これもマーケティング的によくない。

もちろん、筆者は資格試験自体は否定しないし、WordPressユーザーの多くが有用な資格の存在を求めているだろうことも理解している。仕事を発注する側も、受注する側も、わかりやすいバッジがあれば助かるだろう。実際、Automatticはcodepoetというサイトにコンサルタントを載せている。しかしながら、そうした社会的意義よりも検定ビジネス臭を感じてしまうのが「日本ワードプレス協会」である。

  • 会則や商標などの法的に必要なものだけを先に充実しているが、WordPressに関するコンテンツが存在しない
  • 実際に「ワードプレスコンサルタント」として活動している人がどんな人なのかまったくわからない
  • よくあるセミナービジネスの申し込みページだけが存在する

検定ビジネスのフォーマットに則って拙速に足を運んだようにしか見えないのだ。

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上記のような意味で、おそらく検定試験は受け入れられないと思うのだが、いかがだろうか。RubyアソシエーションによるRuby技術者認定試験や、PHPのコアZend Engineの開発元によるZend PHP Certificationなど、それなりの団体がそれなりの理由で提供するのが認定資格だ。

なんにせよ、法的にアウトかどうかという問題とは別に、その外側にある「倫理・道徳」が存在することを忘れてはならない。「法」とは倫理や道徳といった社会規範を制度化・明文化したものであるため、法の外側にある倫理や道徳を無視すると、よく思われないし、その結果、マーケティング的にも失敗する。

「日本ワードプレス協会」へのアドバイス

万が一ではあるが、上っ面なビジネス以外の面でWordPressをよくしたいと思っているのであれば、次のような点を心がけるとよいのではないだろうか。

  • WordPressへの貢献を行う。コードを書く、翻訳をする、プラグイン・テーマを開発するなど。
  • WordPressのイベントへ参加する。
  • 情報発信をする。

熱心にコミュニティ活動をする人がまわりに一人でもいれば、このような事態にはならなかったのではないかと思うのだが、いかがだろうか。商標取得やサイトの用意などで何万円かのお金を使ったことだろう。その投資(と呼べるほどの金額ではないが)を無駄にしないためにも、事前準備はしっかり行っておこう。

また、一度「コミュニティ・マーケティング」という言葉でググってみて情報収拾をしてみることをお勧めする。

コミュニティの脆弱性

さて、このような事態はWordPressに限らず、オープンソースコミュニティではよくある。善意を元にした団体は悪意によってハックされやすいのだ。WordPressがその商標を取得しているのは、いままでコミュニティを荒らしてきた「ハック」への防衛策だといえる。WordPressファウンデーションがその名称で商売を独占したいのではなく、「WordPress」という単語を使って悪いことをする輩がたくさんいたので、しょうがなく商標を取ったのだ。

たとえば、現時点でもWordSlackなどで議題に上がってその後スルーされている“WordBenchの商標とらなくていいのか”問題がある(Githubでの議論)。WordBench終了についてはその後、名前を使用しないで欲しいという主催者三好氏の主張があるのだが、いい悪いは別にして、商標で保護されていないのであれば、その利用を法的に罰することは難しいのではないだろうか。

サイトを終了したのち、おそらく wordbench.org というサイトは消滅、そしてドメインは失効するのだろう。そのときに何処かの悪人が wordbench.jp という現時点で空いているドメインを取得しておけば、Googleの検索結果を丸ごと乗っ取るぐらいのことはできるかもしれない。詳しくないユーザーは間違えてそのイベントに参加してしまうだろう。

もちろん商標を取得することは可能だし、その費用はスポンサーをつけるなどして捻出することはできるだろうが……どうも善意のコミュニティは悪意からの攻撃に弱い。「悪貨は良貨を駆逐する」の金言は伊達ではないということだろうか。

2018年7月3日追記

サッカーW杯ベルギー戦の衝撃も冷めやらぬ朝、日本ワードプレス協会の方からご連絡いただいたので、要旨を以下に記す。

  • WordPressユーザーに不快な思いをさせて申し訳なかった。無知だった。
  • 名前を日本CMS普及委員会に変更した。
  • 講座は5,000円程度と安く、金儲けだけが目的だったわけではない。

これに対する筆者の反応は以下の通り。

  • 悪意がないのはわかりました。持続性の観点から多少のお金を必要とするのもわかります。
  • 日本CMS普及協会という新しい名前もよくないですね。他のCMS(Drupal, Joomla, Concrete5など)の人も拒否反応を示す可能性があります。文化的盗用っぽいです。
  • 商標とか協会名にあまりこだわらないで独自のブランドを出すのはどうでしょうか。
  • 私(筆者のこと)に謝ってもあんまり意味がないし、そんなに怒っているわけではないので、パブリックな場で自分の気持ちを書くことが必要だと思います。
  • WordPressを取り巻く「文化」について勉強してみると、理解が進むかもしれません。

追記は以上。

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この記事を書いた人

高橋 文樹

小説家であり、WordPress開発者。WordCamp Tokyo 2016のリードオーガナイザー。山梨に土地を持ち、DIYで家を建てている。小説と家づくりとWordPress開発の3種競技があれば日本代表有力候補。

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